今年の1月、Pitchforkのインタヴュー上で解散を発表し、1999年の結成から13年にわたる活動に終止符を打ったザ・ブックス。その突然の解散に先立つこと昨年の6月、メンバーの片割れであるニック・ザムートが立ち上げた新たなプロジェクトが、このザムートだ。ザ・ブックスのサンプリング/エディットを多用したエレクトロニック・ミュージックのスタイルを受け継ぎながら、ザムートが大きく異なるのは、それが「バンド」であるということ。ドラマーを含むフル・バンド編成を敷き、ライヴ的な要素も盛り込みながらアンサンブルを構築していく――それこそ“ロック”なアプローチこそ、ザムートの醍醐味にほかならない。そしてニック自身にとってもまた、ヴォーカリスト/ソングライターとしての新境地を拓いたプロジェクトといえる。

ザムートの結成から、今年4月にリリースされたファースト・アルバム『ザムート』、そしてザ・ブックスの解散について、現在USツアー中で多忙のニックにメール・インタヴューで訊いた。

<インタビュー:天井潤之介>

●まず、アルバム『ザムート』の話に入る前に、この話題を避けて通ることはできないと思うのですが……ザムートの始動の前段として、今年に入って発表されたブックスの解散について、あらためてあなたの口からコメントをいただけないでしょうか。あまりに唐突なニュースだったため、日本のファンの間でもショックが大きかったので。ブックスの解散について、今のあなたがどう受け止めているのか。

ブックスの解散はぼくにとってとても悲しい出来事だった。10年以上にわたって、自分の創造的なエネルギーをありったけつぎ込んできたのに、進む道がなくなってしまったんだ。あのプロジェクトの終わりについて、いま詳しく語るのは意味のないことだろう。いつの日か話すことがあるかもしれないけど。ぼくはブックスで活動するのが大好きだったし、その過程で素晴らしい人たちとたくさん出会えた。そんな経験ができたことにとても感謝している。そのおかげで、もっともっと楽しめる新たなバンドを始めようという気持ちになれた。世界中の仲間たちと一緒に、最初からしっかりと築き上げていけるんだから。

●昨年には初期の3枚のアルバムがリイシューされましたが、あなた自身、ブックスとしての活動、その足跡についてはどう評価・総括していますか。

まったくためになる経験だった。リイシューと新しいボックス・セットに関しては、それ自体で残っていけるような方向で、ぼくの手を離れてもいいのかなと感じている。ぼくらはブックスというプロジェクトで新しい音楽を山ほど扱ってきたし、多くの若いミュージシャンたちに、スタジオのなかで新たなことに挑戦するインスピレーションを与えてきた。それが最も誇りに思うところだよ。

●ザムートの始まりとは、どのようなものだったのでしょうか。いつ頃からあなたの中で構想していたものだったのでしょうか。

新しいバンドに取り組み始めたのは一年ちょっと前からで、ブックスの解散がはっきりしたときだった。最初の何曲かを2011年の夏の間に仕上げると、Soundcloudを通してぼくはリスナーたちと初期のヴァージョンをシェアした。幸いなことに、ぼくの新たなアプローチに多くの人たちが感心を寄せているようだった。それが自信になってレコードを完成させることができたんだ。

●ザムートを始めるにあたって、あなたが思い描いていたイメージなりサウンドのヴィジョンとは、どのようなものだったのでしょうか。

とにかくドラマーと一緒にやりたいという思いがあった。ブックスではエレクトロニックとか打ち込みのパーカッションだったせいで、サウンドにもライヴ・ショーにも限界があり、それで昨年ドラマーを探し始めたんだ。キーボード/ギター・プレーヤーのジーン・バックがショーン・ディクソンと知り合いで、ぼくらに彼を紹介してくれた。ショーンは並外れたドラマーで、おかげでぼくらは特にポリリズムにコネクトできている。

●ちなみに、あなたの中でザムートとブックスはどういう関係なのでしょうか。両者の間には連続性のようなものを感じているのか、それともまったくの別物として捉えているのか。

両者の間にはいくつも連続性がある。ブックスのマテリアルの大部分はぼくが書いたものだから、新プロジェクトが同じ考え方から生まれていることは理解してもらえるだろう。ライヴ・ショーも似た感じのマルチメディア的アプローチを特色としていて、そこには暖かさや笑いもふんだんにある。

●ザムートのデビュー曲であり、アルバムの一曲目も飾っている“Yay”ですが、この曲についてはどんな思い入れがありますか。

新作では自分の声で思い切りクレージーなことをしてみたかった。Voice live 2という新しい製品を見つけたんだけど、それはさまざまなヴォーカル・エフェクトをライヴで行えるものなんだ。まだ発展途上のシンガーであるぼくにはすごく便利な代物で、フィルターを通して歌うことで自分の殻を破れるし、冒険もできる。”YAY”はライヴで最高の楽曲のひとつといえるだろう……レコードのヴァージョンよりもはるかにいい。

●ザムートは「バンド」であること、そしてフロントマンによるトップダウンではなく、「アンサンブル」というかたちをとることにこだわりを持っていらっしゃるようですが、そのあたりについて詳しく教えていただけますか。

そう、ぼくがソングライティングをひとりで行い、その多くをプレーヤーたちに渡すのは、ライヴ・ショーのために書き換える自由があるからだ。ぼくが求めているのは、ライヴのほうがレコードよりも優れているバンドになること。ステージ上でフロントマンの役を演じるのは居心地が悪いものだから、注目を全体にまんべんなく広げようとトライしている。

●ブックスにおいてはサンプリングやカットアップが曲作りのベースにありましたが、ザムートにおいては具体的にどのようにして曲作りは行われるのでしょうか?

ずいぶんよく似ていると思う。ただ今回は話し言葉のサンプルを少しだけ使っている。ぼくには膨大なサウンド・ライブラリーがまだあって、何かひらめくことはないだろうかと定期的に利用している。一度、骨組みだけをメンバーそれぞれに渡してインプロヴィゼーションを行い、それらを録音したものをカットアップしてトラックを仕上げたこともあったよ。

●そしてもうひとつ、ザムートにおいて「ライヴ」感は重要な要素だと思いますが、そのあたりのこだわりについてはいかがですか。

このメンバー(ジーン、マイキー、ショーン)でプレイすることは、これまでの経験で最も楽しいことのひとつだ。ショーは本当にどんどんよくなる。間違いなくライヴ・ショーはこのバンドにとって重点的に取り組むべきことだ。

●アルバム『ザムート』ですが、今作はまさにあなたにとって新たなキャリアの始まりを告げるにふさわしい作品だと思います。現時点で、どのような手応えを感じていますか。

そう、いろんな意味で新たなスタートといえるけど、別の見方をすれば、ブックスでの経験を生かしてもっと良いものをクリエイトできるというふうにもいえる。ぼくは楽観的な人間だ。聴衆がショーですごく盛り上がってくれているから、こんなに短い期間でここまで来られることができて、これ以上の喜びはないよ。

●アルバム『ザムート』はまさに、ザムートが「バンド」であり「アンサンブル」であり、そしてライヴ感を重視したプロジェクトであることを証明する作品だと思います。『ザムート』におけるソングライティング、またレコーディングにおいて特に意識したことはなんでしょうか。

最も重要だったのは、ライヴ・バンドの度重なる書き換えに耐えうることができる頑丈な構造を作ることだった。君のいう通り、最もフォーカスしているのはライヴ・ショー。レコードはライヴ・ショーをセットアップする手段となっている。

●ショーンが叩くドラムが強烈ですが、生演奏とエレクトロニクス、またライヴ感とエディット/ポスト・プロダクションのバランスに関しては、どんな点を意識・重視していましたか。

ショーンにはループを超えて自由にやってもらい、そのインプロヴィゼーションのなかで最も卓越的な部分を切り取り、トラック構築のベースに使うようにしている。その後でショーンが録音を聴いて、ストラクチャーの範囲内でもう一度練習する。ショーンはクリック・トラックを使ってプレイするのが本当に得意で、しかもそのままナチュラルなフロウを維持できるんだ。だからぼくらは映像を同期させるためにしばしばクリック・トラックを使い、エフェクトのつまみもライヴの間に変えている。また、ショーンはパッド付サンプラーを使って、継ぎ目がないように自分の演奏に組み込んでいる。

●そして、ザムートのサウンドにおける最大の特徴は、あなたのヴォーカルにあると思います。ヴォーカルの使い方は、たとえばジェイムス・ブレイクやボン・イヴェールなどにも顕著な「音響化されたヴォーカル・スタイル」と共通したアプローチを感じさせますが、自身のヴォーカル、またザムートにおけるヴォーカル・アプローチに関してはどうとらえていますか。

ヴォーカル・エフェクトは自分を利用して、歌い手としてより多くのものを差し出す方法だ。ぼくは相当恥ずかしがり屋な人間だが、極端なヴォーカル・エフェクトはパフォーマンスに没頭する手助けをしてくれる。それに人間と機械の二分法も面白く、昨今の文化的なアイデンティティの危機を反映しているように思える。

●ちなみに、最近はどんな音楽を聴かれているんですか? 今名前を挙げたジェイムス・ブレイクやボン・イヴェール、あるいは最近のチルウェイヴと呼ばれるエレクトロニック・ミュージック、ハドソン・モホークやゴールデン・パンダといったUKのベース・ミュージックなどは聴かれますか?

最近の音楽シーンで起こっていることには、まるきりタッチしていない。音楽を書いて日々を過ごすようになってからというもの、新しいサウンドを取り入れるエネルギーがなくなってしまった。自分自身の方向性がこんがらがってしまうんだ。一般的には、音楽を楽しむにはもってこいの時代だと思う。とても平等だし広範囲にわたっているし。

個人的には、最近はポリスにはまっている。スチュアート・コープランドのドラムのせいだろうと思う。あのクリーンで鮮やかなオープン・ハイ・ハットのスタイルが大好きなんだ。
家族もぼくもポール・サイモンをずっと聴いている。ガーファンクルと離れた後の初期のものばかりで、ソングライティングも作品も一流だ。

●あるインタビューで、あなたが今回のザムートの結成を巡る状況について「do-or-die situation」と話されていたのが印象に残りました。また別のインタヴューでは「喪失感と癒しの過程(the grieving/healing process)」とも話してました。今回のザムートの結成を巡っては、ブックスの解散を受けて、プライヴェートな部分でもさまざまなことがあったそうですが、そうした問題を乗り越えていま、ザムートとして活動をスタートできた、その最大の要因とは何だったと思いますか。 新たな活動へと向けてあなたを支えたものとは、なんだったのでしょうか。

そう、まだ“いちかばちかという感じ”は変わらない。ぼくには息子が3人いるし、家族のためにもこのバンドで家計を支えなくてはならない。リスナーたちから得られるサポートはすべて必要だ。そうでなければもうレコードは作れない。レコードを作る理由は、また次作が作れるかもしれないからだ。そういう意味では、ぼくの“問題”に終わりはないんだろう。けれどそれでいいと思っている。

●ザムートとして新たなキャリアの幕開けを飾ったいま、これからの活動に対しては、どんな予感や期待があなたの中を満たしていますか。

この秋に行われる初のヘッドライン・ツアーが本当に楽しみだよ。それが終わるころに次のレコードが制作できるかどうかわかるだろう。

●最後に、あなたが音楽を作るうえでいちばん大事にしていることを教えてください。 それと、日本のファンに向けてメッセージを。

一番大事にしていることは自分自身を驚かすこと……すでに見える道から外れることだよ。

ブックスで一番残念に思っていることのひとつは、日本で演奏できなかったことだ。ザムートが近いうちに日本へ行って演奏できるよう願っている!

どうもありがとう!

“ZAMMUTO” ザムート
ZAMMUTO” ザムート
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歌詞対訳付
解説; 天井潤之介